2月10日(日)、NPOや市民活動に関する政策提言を目的に活動する、「NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」のお声がけで、代表理事の仁平貴子が学習会に登壇してきました。
2018年はNPO法施行20周年記念の年。この節目の年度に、シーズ、日本NPOセンター、まちぽっとの3団体の主催により、NPOや市民活動にまつわる最新トピックを取り上げて勉強しているのがシリーズ「NPO法20周年記念プロジェクト テーマ別学習会」です。
地域においてNPOなど地域の担い手不足に困る状況もある中、最近では、兵庫県神戸市や奈良県生駒市において、公務員のNPO等での地域貢献的な有償兼業制度が始まり、同様の制度として国家公務員でもNPO等での「公益的兼業」の制度設計が進んでいます。今回の学習会では、地域の人材のパラレルな活躍や協働に向けて、NPOと議員・公務員の連携や、NPO活動との両立を進めていくでのポイントや課題などについて、参加者を交えながら議論しました。
【日時・会場】2019年2月10日(日)14時~16時、ちよだプラットフォームスクエア本館4階
【プログラム】
- はじめに(テーマ背景などの説明):シーズ代表理事 関口宏聡さん(10分)
- 事例紹介(60分)
- 事例紹介1:三井俊介さん(NPO法人SET 代表理事/陸前高田市議会議員)
- 事例紹介2:仁平貴子(NPO法人6時の公共 代表理事/千葉県庁職員)
- 参加者を交えた質疑応答・ディスカッション(50分)
この日集まった参加者は実際にNPO活動に従事されている方や、市民活動センター職員の方など、日頃、自治体を含め様々な機関との連携をされている方々。終始和やかに、臨場感ある話題で大いに盛り上がりました。
学習会の概要はこちら→ http://pm6lp.org/archives/997
1枚目の名刺がNPO法人、2枚目の名刺が市議会議員
三井さんは1枚目の名刺がNPO法人の代表、2枚目の名刺として市議会議員としてまちづくりやひとづくりの活動に取り組んでおられます。まずは三井さんが代表理事を務める特定非営利活動法人SETについてご紹介がありました。
(団体紹介ダイジェスト)岩手県陸前高田市広田町を拠点に「人口が減るからこそ豊かになるまちづくり・ひとづくり」を掲げ、町の方とともに「まちづくり」と「ひとづくり」に取り組む。三井さんが現役大学生の頃、2011 年、東日本大震災の復興支援活動の過程で縁の生まれた広田町を拠点に活動を開始。2013年に法人化。大学生向けの1週間滞在型のプログラム、4か月間の移住留学や、民泊修学旅行誘致、中高生と大学生が一緒に取り組む地域活性化とキャリア教育プログラムなど、I・Uターン、移住促進に係る各種事業を展開中。第13回マニフェスト大賞での「シティズンシップ推進最優秀賞」ほか受賞多数。
驚くのはその成果!域内外の活動人口数、移住者実績、民泊受入数等の各種実績値からは、SETさんの圧巻の人々の巻き込み力が見てとれます。
SETホームページはこちら→ https://set-hirota.com/
地元のお世話になっている方に勧められ2015年9月の市議会議員選挙に出馬、トップ当選で市議会議員になってからは、例えば、新しい公共交通に関する実証実験、公立学校の運営協議会や学校区の地域コーディネーター、漁業就業者育成協議会などによる担い手育成などの分野で、行政と様々な形の協働がより加速化したとのことでした。
三井さんの立ち回り方としてたいへん興味深いのは、政策の概念から事業化に落とし込むまでの持っていき方が非常に戦略的であるということです。具体的な記述はここではしませんが、行政サイドの視点になって必要な合意形成や企画立案に取り組み、リソースの調達などは協働で行うそうです。通常、行政の「お目付け役」である議員は政策の概念や方向性についてコメントすることはあっても、具体的事業プランの形を丁寧に提案するという動き方までをする方はそう見かけません。これは、日頃のNPOとしての事業企画運営のノウハウを持ち合わせた目線があるからこそできる業だと思います。復興関連事業も数多く抱え、慢性的に多忙を極めるだろう被災地行政にとっても、責任感&コミットある提案なら具体的道筋を立てて動きやすいのではと感じました。
三井さんの動き方について、参加者からは次のような質問が出ました。
Q「議員になってしまったら『色』がついたり、時間的にも身動きがとれなくなったりして、NPOとしてやりたいことができなくなってしまわないか?」
三井さんいわく、行政と協働が進めば進むほど「癒着」と見られてしまうこともままあるとのこと。議員とNPO法人代表という立場上の兼ね合いで、市から直接事業を受託することは事実上しにくいが(地方自治法第92条の2との抵触)、それ以外の方法、例えば、法人の別の職員が協働事業に参画するなど、委託関係以外の形をとることで行政との関係性を保っているとのことでした。
いずれにしても、議員という仕事に大きなやりがいを感じると語る三井さん。例えば、移住促進の事業については当初数十万規模だったものが、今では1億円相当の事業規模になっているそうです。この事業の育て上げにおいては、議員になって行政を理解し、NPOとして取り組んできた視点から、効果的な座組みを提案するという立ち回りが功を奏したそうです。結果、プロポーザル形式で市から別のNPO法人が事業を受託して運営。三井さん自身は当該団体のフェローという立場で、助言的な関わりをされているとのことです。
一方で、自身の気質として「プレイヤーであり続けたい」と語る三井さんは、議員活動とNPO活動の時間配分・スケジュール調整に、多少なりフラストレーションを抱えることもあるそう。この点については、一人の人間が何役もこなし議員を続けるのではなく、同じ政策的方向性を共有できる同志から政治セクターに人を立てることや、NPO活動が取り組むひとづくりの波及的な効果として、政治家や主権者市民の考え方に影響を与え、同じ政策的方向性を共有できる人材が間接的に輩出されていく視点などについても議論となりました。いずれにしても、NPO法人もNPO法第2条2項2号に規定されるように「政治的中立性」については常に念頭に置いた行動が必要となります。
政治家としての「色」については、市長派だとか特定会派だとか、そういったことからは距離を置き、あくまで政策的方向性について合致する事項については力を合わせていくというスタンスをとっているそうです。
政治家でも、NPO職員でも、行政職員でも、地域を良くしていく活動において、そのアウトプットの最大化が図れる立ち回り方は何なのか。複数を兼ねる場合の投入量の最適なバランスはどこか。三井さんのお話や皆さんとの議論から、そのようなことを考えました。
1枚目の名刺が地方自治体職員、2枚目の名刺がNPO法人
さて、1枚目の名刺が地方公務員、2枚目の名刺がNPO法人の代表という仁平からは、ざっくり以下のようなプレゼンを行わせていただきました。
- 朝8時~夕方5時の公務員としての職務専念義務を果たしたあと、PM6時から始める公共の活動として「6時の公共」をつくった。役員・スタッフ一同、現役の地方公務員でほぼ構成されている団体は全国的に見ても初。
- 社会課題の解決に当たる各主体の取組みは増えつつも、市民、議員を問わず、行政に向けて解決を求められるシーンがまだまだ多いのが地方自治の実情。行政は、法規制、予算制約、公平性やバランス…など、やりたくても「できない」理由や背景があるが、それらは外には見えにくく、わかりやすく伝える工夫が行政サイドにも不足している。こうした、複雑なまちづくりに関する制度やシステムをまず紐解いて伝え、知ってもらうことが、各主体がそれぞれの役割においてできること考え、協働を含めた様々な手法により、地域の課題解決に向けた行動につながるきっかけとなる。こうした考えのもと、定期的な学習会やオンラインでの動画配信などにより、市民、行政、議員の3者の知恵の共有、対話のコミュニティづくりに取り組んでいる。
- (仁平の自己紹介)大学卒業前から国際協力NGOでのインターンを始め、卒業後は2足わらじで社協ボランティアコーディネーター。その後、大使館、民間企業などの勤務経験を経て、千葉県庁に入庁して約11年。2年の任意活動を経て、2017年12月に6時の公共を設立。庁内公募制度(特定の業務に自ら手上げ)を利用し、30代働き盛りのタイミングで現所属の市民活動推進部門に配属となる。
続いて、コーディネーターのシーズ関口さんの問いかけや参加者からの質問にお答えしながら議論を深めていきました。
Q「パラレルで働くことにおける苦悩は?」
「体力とスポ魂で何とか乗り切っている」
仁平からはこのように率直にお答えさせていただきました。中高陸上部出身の私は、とにかくこの2点が、同世代の女子より優れていると自負がありますが、それでも、日中の公務員業務で深夜営業を重ねたときなどは、NPO活動との両立はしんどいと感じることもあります。民間のパラレルワーカーやフリーランスの中でも“ひとりブラック企業化”への注意喚起があるようですが、自身の時間のやりくりや志を分かち合った上で業務量も分担できるスタッフのリクルートは課題です。
❊ちなみに、せめて働いた分を「お金」でもらえたとするのであれば、いったいどれくらいの賃金的価値として換算できるのかを意識的に可視化するため、6時の公共では事務局スタッフ等の日々の業務従事時間を「ボランティア受入評価益」として緻密に計上し、活動計算書上にあえて反映する方針をとっています。
(体力的時間的に)パラレルもできる、パラレルした方がその人本来の力を発揮して“もっと”地域に貢献できるとならば大いに結構。ただ、公務員であれば公務を通して地域のためにミッションを果たすのが大前提なのは忘れてはいけません。この他にも、パラレルワークについての職場から理解の得方であるとか、苦労面は他にもありますが、その辺りは時間の制約で今後の議論に持ち越しました。
Q「NPO法人の役員報酬や給与は得ているか?」
6時の公共の役員・スタッフについていえば、今のところ、誰一人として報酬や給料は得ておらず、無償で活動しているとお答えしました。当法人の役員・スタッフがそれぞれ所属する役所では、神戸市や生駒市のような公益的分野における兼業を積極的に認める制度は誕生しておらず、公務員をやりながらのパラレルワーカーとしては、現状、実質的に報酬給与は得られないこと、また、そもそも、収益をたくさん上げる事業構造にもしていないので、経費をまかなって余る分はすべて事業に再投資している状況です。
ちなみに、地方議会議員は特別職として兼業について禁止されていませんから(地方自治法第92条の2に該当する兼業を除く)、NPO法人の役員ないし職員として報酬・給与を得ることは問題なく、三井さんも法人から役員報酬を一部得ているとのことでした。
パラレルな働き方、という話題に続き、行政とNPOとの協働手法に関して、
Q「行政からお金をもらって事業をしたとき、NPOの独立性はどこまで保てるのか?」
というご質問をいただきました。これについては、どのようなもらい方をしているのかによって違いがあるということをお話しました。
たとえば補助金は、行政が意図する政策誘導の一形態でありながら、基本的には一定の条件を達成いただいた場合は補助しますよ、という対等な立場の契約行為の一種になりますので、その条件下で取り組むものであればNPOの独立性は当然保たれます。
一方で、企画提案(プロポーザル)という形態であると、NPOはあくまで委託事業の企画運営者、事業主催者は自治体、となりますから、行政の意図にそぐわないことはできない、ということになります。こうした事業の取り組み方においては、NPOと行政の双方の意図するところが相当に合致しているとウィンウィンに進められると言えるでしょう。当該地域や分野で、行政の意図する方向性に、明確で最大限の効果を発揮できるオンリーワンの提案ができると、公的なステージとして取組みを推進できるということになります。
さいごに(考察)~NPOと行政、政治との関係~
法的倫理的に、報酬や立ち回り方などの面でパラレルワークはどこまでできるのかという話題に時間を割きましたが、さらに時間があれば、最後の質問にあった延長線上として、NPO、行政、議員の3者の協力/協働手法の類型・体系というようなものについてもあらためて整理の上、議論を深めてみたかったと思います。人が足りない、お金が足りない、アイデアが足りないからとりあえず協力/協働しよう、ではなく、地域の総意としての推進力を高めた政策に昇華させたり、守備範囲を明確化した上で限られた資源を有効に投下する算段をつけるなど、そうした戦略的な協力が必要な時代なのではないでしょうか。
委託や補助金といった形以外に、関わる主体がもっとイーブンな関係でやれる協働って何なのか。何も一つの事業をみんなで一緒に行うのでなく、大きな共通のミッションに向けて、それぞれの主体がそれぞれの役割として、個々の事業をそれぞれの責任においてやるということや、政策の意思決定のステージで役割を果たし、事業の運営段階では別の担い手に信頼を持ってお任せするということも、協働の形といえると思います。様々な協力/協働の上に、良い政策・事業が生まれ、コレクティブな地域のうごめきとなるはずです。
どこか日本では、政治と行政、市民(NPO含む)の関係について踏み込むことをタブー視したり、各立場の間に見えない壁を作り、妙な上下関係を漂わせたりといった空気感がまだまだあるのではないかと思います。地方分権の文脈や、人口減少の中では、3者それぞれが、馴れ合いではない、真の信頼関係とパートナーシップを築いて、ミッションを共有し、まちづくりに関わる良質なプレイヤーとして責任を果たしていくことが必要です。そうすることで、地域の民主主義がぐるぐる回り、地域が真に求める創造的な政策や事業が生まれていくのだと思います。異なる立場のボーダーを行き来するようなパラレルな「新人類」や考え方が理解を得ていくには、まずはそのような3者の本来の役割を正しく認識し、各プレイヤーが持てるメソッドを知ることから始まるように思います。私たち6時の公共も、公務員のパラレルな人材の活躍についてひとつのロールモデルとなれるよう取り組んでいければと、身の引き締まる思いがした学習会でした。