プレイヤーズ・インタビューVol.2~6時の公共に集う仲間たち~

6時の公共に集う公務員やビジネスマン、議員さんなどなど、様々な背景を持つ仲間たちの日常や考えていること、6時の公共との関わりや日頃の苦労話など、素顔にじわじわと迫っていくインタビューシリーズです。

第2回目は、6時の公共理事である諏訪頼史(すわよりふみ)さんと篠田智仁(しのだともひと)さんです。諏訪さんと篠田さんは日中は市役所で公務員、それ以外の時間帯に、地域内外を精力的に飛び回り、まちづくりシミュレーションのワークショップファシリテーターなどとして活躍されています。(インタビュー実施:2019年6月)

諏訪頼史(すわよりふみ)プロフィール

千葉県船橋市在住、埼玉県三郷市職員(2000年入庁)。東洋大学経営学部商学科卒業後、民間企業へ就職。その後転職し、埼玉県三郷市へ入庁。納税、県税出向、納税、企画、保育(放射能対策兼務)、スポーツ、企画という異動を通じて様々な業務を経験。現在は企画総務部プロジェクト推進課に勤務。県税事務所出向、市区町村職員国内外研修プログラム、市町村アカデミー参加など“外遊” も経験。公務員人生最大の転機は2007年に参加した市区町村職員国内外研修プログラムへの参加。全米で最も住みたいまちと言われているオレゴン州ポートランドの視察から多くの示唆を得て帰国。業務時間外に関東近辺の自主勉強会に参加し、自己研鑽に励む日々。全国の同業者の仲間に刺激され、虎視眈々と自らの引き出しを増やす” ネタ”をトライ& エラーを繰り返しながら模索中。趣味はゴルフ。ベストスコアー 75 クラブハンデ 7。

 

篠田智仁(しのだともひと)プロフィール

千葉県茂原市出身、茂原市職員(1997年入庁)。建築主事、1級建築士、被災建築物応急危険度判定士。神戸芸術工科大学芸術工学部環境デザイン学科卒。「環境=場所の力」を引き出す建築のデザイン手法について学ぶ。神戸在住の20歳の時に阪神淡路大震災により被災。現地学生ボランティアとして復興支援に携わる。建築技術者として震災の教訓を地元で活かしたいと1997 年茂原市役所入庁。2016 年度早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会生。翌年度同運営委員。前例踏襲型の組織と思考を脱却して、潜在する資源と能力といった地域のポテンシャルをフルに引き出せる人材の育成に懸ける。地域の課題解決を市民協働で取り組む市民活動団体「シビックテックもばら」を創設。副代表(2016~)。趣味はサッカーとフットサル、アウトドア。子供の頃からLEGO®が好き

日中の役所ではどんなお仕事をしていますか

(諏訪さん)

おもな業務として、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、ホストタウンの交流事業や機運醸成イベントの企画運営、事前キャンプの誘致や聖火リレーの準備などに取り組んでいます。私が勤める埼玉県三郷市は2016年にギリシャ共和国を相手国としてホストタウン登録されました。ホストタウン交流事業の一例として、市内小中学校でのギリシャの文化やオリンピックの歴史、ギリシャ語を学ぶ講座、ギリシャ料理の給食を食べてもらうなどの交流を実施しています。2018年には市内の商業施設の協力を得てオリンピック聖火トーチ展を開催し、約10万人以上のお客様に観てもらうことができました。また、2020年の7月には、市内を聖火リレーが走ることが決定しているので、これから関連業務も忙しくなりますし、市内に新たにできた陸上競技場を東京2020大会に向けた事前キャンプ地として使ってもらえるよう、誘致活動などにも取り組んでいます。

こうした所属課の仕事に加え、役所内の職員研修ではここ数年、政策形成や「SIMULATION2030」(以下、SIMという)の講師も務めています。

 

(篠田さん)

私は建築職として、茂原市役所に勤務し、建築確認の審査などをしています。

また、GIS(地図情報システム)やオープンデータの利活用なども重要だと思っていて、所属する課でも、紙から電子化への取り組みを積極的に進めたり、庁内でもそうした取り組みの重要性について広く認識が進むよう、積極的に働きかけたりしています。

おふたりは、自治体職員が有志で集まるいわゆる自主研(自主研究会、職員勉強会)に参加されているようですが、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。役所という職場にも還元しているのですか

(諏訪さん)

私は各地の自主研活動に2015年くらいから参加するようになりました。最近、全国の自治体からお声がけいただいているのが、熊本発祥の対話型自治体経営シミュレーションゲーム(ワークショップ)「SIMULATION2030」(以下、SIMという)の研修等実施時の視察や各地で体験会を実施する際のファシリテーターのご依頼です。2015年8月、浅草で、シリーズ元祖の「SIMLATION 熊本2030」体験会があり、そこに参加しました。ゲームの開発者を熊本県庁からお呼びして体験会を主催した(6時の公共代表理事の)仁平さんと出会ったのはこのときですね。

このゲームの衝撃がとても大きかった。この体験会の2年ほど前から庁内で政策形成の講師を担当しており、研修内容をもっと充実したものにできないかと考えていたところ、このSIMをご当地版(三郷市版)にカスタマイズして取り入れることができないかということを思いつきました。

職員研修の担当課にも掛け合って、実際にゲームを実施している場面を見て体験してもらうことが一番ということで、横浜や千葉での体験会に来てもらったり、庁内でも体験会をやってみたりしました。この間、各地でパンデミックのように広がっていたSIMの体験会において様々な経験を積み、千葉でも千葉版を作る動きに参画させてもらうなど、ファシリテーターや作成ノウハウの経験をつみ、「SIMULATION みさと2030」を完成させるに至りました。水戸市役所の知人が立ち上げた「新日本紙芝居演芸協会」の会員でもあるのですが、「紙芝居」を使った「まとめ」も取り入れて、参加者の記憶に残るための工夫を重ねています。今では、政策形成の研修の中にSIMを取り入れて4年目になります。庁内以外では、独協大学の学生向けに実施もしましたし、これから、市の総合計画づくりにも活用できないかなど、考えています。

(篠田さん)

2015年11月、福岡市で「SIMULATIONくまもと2030」体験会に参加したのですが、そこで、SIMを千葉でも作る動きがあると教えてもらい、(上段諏訪さん説明の)関東体験会を経験した千葉の人たちとつながりました。

翌2016年に、早稲田大学マニフェスト研究所(以下、マニ研)研究生として参加しました。研究の学びを実践するチャレンジとして、縦割り組織の中で「対話の共鳴」を広げようとしていました。その研究の一環として、福岡市の元財政課長(今村寛氏)をお呼びした財政講座とセットでSIM体験会をオフィシャルな職員研修の位置づけで実施するにこぎつけました。その前段では、事前に市の研修を担当する課の職員向けに個別に体験会を実施したりして、導入にあたっての職場の理解を得たりもしました。

当時はまだ、ゲーミフィケーションという手法を通して学ぶということが、職場の中で認知を得るにはハードルが高かったので、すでに、職員研修としてSIMを取り入れていた他の自治体の経験なども参考にしました。

2017年には、総合計画の策定プロセスで市民向けにSIMULATIONさかた2030を開催した経験のある、山形県酒田市の職員の方をお呼びし、職員向けに、総合計画策定研修を実施しました。その時は、研修当日までに「SIMULATIONもばら2030」を庁内横断的な若手職員と力を合わせて作成。完成したものを当日職員に向けて体験してもらうことができました。その翌日も酒田市の職員の方に連日ご協力いただき、茂原市で初のオフサイトミーティングの立ち上げ、キックオフ会を実施しました。

個人的にグラフィックレコーディングも学んでいるので、仲間にも協力してもらい、学びをグラレコで記録するという工夫も取り入れました。

私は職場内で諏訪さんのように研修講師という位置づけもない中、マニ研での研修期間が終わったあとは、一職員として、時に一市民として、職場の理解も得ながら、こうした取り組みを自主的に行っています。

(諏訪さん)

こうした対話型のワークショップについて、言葉だけでその内容を伝えるのは難しいです。地道な内外の普及活動の積み重ねの結果、ここ5年くらいで、ようやくこうした研修の形が役所内でも受け入れられるようになったといえると思います。

私も篠田さんも、全国のSIMオリジナル体験者が集う「SIMファンネットワーク」というFacebookグループに入っており、こうしたネットワークで、全国の自治体職員の取り組みを参考にしたり、時に他の自治体職員とも協力・応援し合いながら、職場や市民等に向けた普及に取り組んでいます。

人を育てる活動に精力的なおふたり。どんな思いで取り組んでいるのですか

(諏訪さん)

私は、あまり、庁内とか、庁外とかを意識していなくて、体験者の何かしら「学び」や「気づき」の“きっかけ”の一助になればという思いで、求められればどこへでもお邪魔させていただいています。庁内に還元することができたのは、あくまでも結果論であり、還元ありきで行動しているということではありません。そういう活動がもし社会の役に立つのなら、自らがその一旦を担えるのであればとの思いからです。いずれにしても、まずはやっていて自分が楽しいか、自分の成長につながるか、そこがモチベーションのベースになっています。

継続的に周囲に広げていく、つなげていくというのはとても大事なことですし、一時期は若手に声がけをしたりもしましたが、管理職にもなると、時としてそれが命令?かのように伝わってしまうのもよろしくないなと。自分がこのような課外活動を始めた時、誰かに「やれ」とは決して言われていない。それを考えたとき、自分がやってることを無理に下につなげるぞ、というのもちょっと違うのかなと思いました。仮に自分だけで途絶えたとしても、今後、自分のように、自ら何かが必要だということに気づき、その時にその人なりの行動につながれば、それでいいのではないかということです。

私は三郷市出身者ではないのですが、外から来た人間が組織の中で存在感を示し、「アイツならやれるのでは」という、常に可能性を秘めた人間でありたいという想いから、「自分でネタを拾いにいく」という感覚が無意識のうちに身についている、ともいえます。

活動において大変だったことやおもしろかったことは

(篠田さん)

庁外での自分の学びや気づきを、なんとしても職場に還元し、オフィシャルな動きにつなげたいという強い思いがあります。前例踏襲に陥りがちな組織の壁をどう突き動かしていけるのか、自分の自治体は危ういという意識、それが原動力といったらいいでしょうか。

もともと規模の大きい公共建築のデザインに携わりたくて自治体職員になりましたが、20代、30代の頃は、思い描いていた業務に携われないという我慢の日々でした。また、技術者の世界では一定の資格を持ち、プロとしての信頼を責任を得ていないと議論のテーブルにさえつけないということを肌で感じ、建築士、建築主事を取得しました。建築というハード面のことだけではなく、「こと」というソフト面のデザインができる人材になりたいと考えており、建築職にとらわれない昨今の動きにつながっています。

これからの若手職員や若い世代には、自分が感じてきたような我慢やジレンマではなく、もっと生き生きとまちの未来のために働いていってもらいたい。そのために自分には今何ができるかということを考えています。

こうした思いは、マニ研や各地の公務員ネットワーク、県の出先事務所に出向するなど、市役所の「外」に出た経験もあって見えてきたものです。その思いを周囲とどう共有し継続していけるかが今後の課題といえます。

この先、どんな取り組みを考えていますか

(諏訪さん)

持続可能な開発目標をカードゲームで学ぶ「2030SDGs」認定ファシリテーターの資格を持っています。今後、自治体でも、SDGsを意識した総合計画づくりをしていくことが求められるだろうし、内閣府も地方自治体の中で先駆的な取組を行う都市を「SDGs未来都市」として選定する動きもあります。こうした動きを受けて、自分も何かしらお役に立てるのではないかと考えています。地域の事業にSDGsの観点を落とし込んでいくと、いったいどんな反応が出てくるのか。また、コーチングや場のデザインスキルにも興味があり、これからも自らの引き出しを増やすべく、少しずつ前に進んでいければと考えています。

(篠田さん)

私は、日本の自治体やソーシャルセクターの具体的なアクションを題材に、地方創生について学ぶカードゲーム「SDGs de 地方創生」の認定ファシリテーターを取得しました。また、ブロックで作った作品をとおして対話で考えを深めてゆく「LEGO®SERIOUS PLAY®」のファシリテーター認定を受けています。一度、タマガワリーグという自治体職員等が有志で集まるネットワークにおいて、諏訪さんが「2030SDGs」カードゲームを、私が冒頭と振り返りに「LEGO®SERIOUS PLAY®」を実践しました。

SIMがどちらかというとまちづくりを考えるスキルやフローを学ぶものとすると、SDGs関連のゲームは、体験した人が潜在意識の中にSDGsという考え方を落としこんでいき、じわじわと実践の中で効いてくるようなものなのかと思います。

そのような学びの場において、「対話」は必須であり、場をファシリテートする能力が自治体職員に求められている時代だと感じています。未来のまちのために「対話」の機会を組織や地域で少しでも広げていきたいと考えています。

6時の公共では中高生に向けたまちづくり学習教材を作成するプロジェクトが進んでいますが、期待することは

~まちづくり学習教材開発プロジェクトの詳細はこちら~

(篠田さん)

たまたま、とある研修で大学の先生とご一緒したご縁で、千葉商科大学の学生向けに「SIMULATIONもばら2030」の体験会を開かせてもらいました。その先生はSIMというコンテンツを職員研修に留まらず、2016年に立ち上げた「シビックテックもばら」という市民活動団体が、まちづくりへの意識を涵養するツールとして市民向けに広めようとする市民活動の形に、強い関心を示してくださいました。「対話」でまちづくりをシミュレーションするという方法について、大学や学生とのつながりにより、次のブレイクスルーが生まれていったらと思います。

このように、公務員という仕事で培った目線や、そこから紡ぎ出したゲームシステムを用いて、学生との対話につなげていくことができたらよいですね。市民活動団体として地域のイベントにおいて、GISでつくった地図をプリントしたバッグをつくるワークショップを小学生以上に提供するなどの経験もあります。こういった経験を踏まえて、こちらの学習教材の普及においても何かご協力できることがあると考えます。

(諏訪さん)

大人や大学生を対象としたワークショップの経験はありますが、中高生ともなれば、内容に引き込まれる「仕掛け」が重要だと思います。

また、教材を通して、気づいたところから、それをきっかけに何か行動してもらえるようになったらいいですね。自分できっかけをつかみ、何かに気づき、行動して小さな成功体験を積み重ねていく。そういうプラスのサイクルの中で、成長を重ねた人間をリーダーとして大事に育てていく。そんな世の中を作っていければと思います。ぜひ、中学校・高校の先生で、共感してくれる方を探し、実績を積んで、どんどん営業をかけにいけるといいですね。

我々行政の人間は、ふだん、いろんな方からいろんなお知恵やスキルを提供いただいて、各種施策を展開できているわけです。ぜひ、こうした教材が、社会の役に立つツールとひて、普及していけるといいですね。また、作成するプロセスから我々がまた大いに学べるはずなので、そこも引き続き楽しんでいけたらよいのではと思います。

 

◆告知◆

Civic tech ZEN Chiba主催「Code for Japan Summit 2019

2019年9月28日(土)~29日(日)於:神田外語大学(千葉市美浜区)

同行事内セッション「SDGs de 地方創生カードゲーム」(2019年9月29日(日) 13:15〜16:00)にて、篠田さんがセッションのファシリテーターをされます

詳細はこちら https://summit2019.code4japan.org/sessions/9

※インタビュー中に話題となっている「Simulation熊本2030」を体験できるセッションもあります。詳しくはサイト上「プログラム」からご覧ください。

縦横無尽に役所内外に働きかけるお二人の活動スタイルに学ぶとともに、引き続きお二人の活躍に期待をしてまいります。

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